大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和36年(む)282号 決定 1961年10月28日

主文

昭和三六年一〇月二四日大阪地方検察庁検察官が申立人に対してなした収監処分(収監状の発布及びその指揮)はこれを不当として取消す

理由

一、本件申立の要旨は「申立人は昭和三六年一〇月二四日仮出獄を取消され大阪地方検察庁検察官の発する収監状により収監されたが右検察官のなした収監処分は不当である。」というにある。

二、所で申立人石川育夫、松野良秀の供述、執行停止決定書、診断書西村幸夫の収監状によるとつぎの事実が認められる「申立人は昭和三三年一二月一九日大阪地方裁判所で殺人未遂、火薬等取締法違反、銃砲刀剣類等所持取締令違反等の罪により懲役三年に処せられて服役中仮出獄を許されたが、更生保護委員会は申立人が遵守すべき事項を遵守しなかつたとしてその仮出獄を取消し、この取消は同三六年一〇月二四日午後四時頃大阪市阿倍野区阿倍野筋三丁目七二番地相原第二病院において申立人に告知された。一方大阪地方検察庁検察官本井吉雄は同日右告知に先立ち申立人に対する収監状を発布し、同庁検察事務官松野良秀、同鍋島英和、池下宏にこれを交付した上右保護観察所係官が仮出獄取消告知のため申立人方におもむくのに同行して同時に収監状を執行するよう命じ、同事務官等は同日午後四時一五分右病院において申立人に対し収監状を執行した。」

思うに刑事訴訟法四八四条四八五条によると検察官は本人が逃走中又は逃走のおそれがある場合を除いては刑執行のための呼出に応じない時に限り収監状を発布できることとなつているが、検察官が右収監状の発布以前に刑執行のための呼出をしたこと並びに本人が逃走中であつたことは何等認められない所であり、又申立人はこの折昭和三六年(わ)三八二七号殺人被告事件について勾留中、同年一〇月七日前記病院を制限住居とし一週間毎に申立人の病状報告をするとの条件を付して同年一一月六日迄勾留執行停止されて釈放され、同病院において一〇月一三日脱肛手術(ホワイトヘツド氏法による)を実施され、同月二四日には歩行することも殆んど困難であり手術糸も抜かれておらず、排便を自らなすことも困難な状態にあつたものであるから右同日においては申立人が逃走する虞は全然なかつたものと言わねばならない。従つて検察官の右収監状発布はこの点において違法であるのみならず右収監状は仮出獄取消が効力を生ずる(犯罪者予防更生法五五条の二)以前に発布されたものであつて収監状発布の要件がそなわらない中になされたものであるからこの点においても違法のものといわねばならない。

三、更に申立人の病状は前記のとおりであつてまだ二週間程度の入院加療の必要があつたのであり、刑務所内の治療は現在の設備等をもつてしては充分でなく相原第二病院医師は右収監に際し申立人の病状を考えて強く収監に反対し又一方裁判官も監獄外での治療の必要を認めて勾留の執行を停止しこれについて検察官も不服の申立をしていないこと等を考慮すると前記同日当時においては申立人を収監することは不適当と認められるのである。(又これらの事実によると刑法四八二条一項により刑の執行を停止できる場合であつた。)所で刑事訴訟法五〇二条に「不当」とは不法のみならず不適当な場合をも含むことはその文言及びこの規定の目的趣旨より当然のことであり、又検察官が収監状を発すとき前記事実を知らなかつたとしてもこの規定の目的は検察官に制裁を科したり損害賠償を命じたりするものでなく、申立人を不当な執行により救済する点に存するのであるから客観的にかかる事実が存在すれば充分であると考える。

以上いずれの点よりしても同年一〇月二四日大阪地方検察庁検察官がなした西村幸夫に対する収監状の発布及びその指揮は不当であるから刑事訴訟法五〇二条、五〇三条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 網田覚一 裁判官 西田篤行 井関正裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例